小栗虫太郎「黒死館殺人事件」読み物アプリ
Tentang 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」読み物アプリ
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雑誌『新青年』に1934年4月号から12月号にかけて連載された。挿絵は松野一夫。1935年5月に新潮社より単行本が刊行され、太平洋戦争後も早川書房のハヤカワポケットミステリ(誤植多し)や、講談社・社会思想社など多くの出版社から繰り返し再版されている。社会思想社版「黒死館殺人事件」は松山俊太郎による語彙・事項の誤記訂正版である。
『著者之序』によれば、主題はゲーテの『ファウスト』であり(作中ファウストの呪文が示されるごとに殺人劇が繰り広げられる)また、着想の起点として「モッツアルト(モーツァルト』)の埋葬」が挙げられているが、全体は、作中にも言及されているS・S・ヴァン=ダインの『グリーン家殺人事件』の影響が瞭然である。日本で唯一のゴシック・ロマンスとの評もある。
基本的な筋は、名探偵が広壮な屋敷内で起こる連続殺人事件に挑む、という探偵小説の定番のものであるが、本作の特徴は晦渋な文体、ルビだらけの特殊な専門用語の多用、そして何より、殺人事件の実行、解決としては非現実かつ饒舌すぎる神秘思想・占星術・異端神学・宗教学・物理学・医学・薬学・紋章学・心理学・犯罪学・暗号学などの夥しい衒学趣味(ペダントリー)であり、それらが主筋を飲み込んでいる感がある。具体的には自動人形、『ウイチグス呪法典』、カバラの暗号、アインシュタインとド・ジッターの無限宇宙論争、図書室を埋め尽くす奇書、倍音を鳴らす鐘鳴器など次々と謎めいた道具立てが登場し、神秘的、抽象的な犯罪と、超論理の推理と捜査が展開される。坂口安吾の「ヴァン=ダインの(悪いところ=衒学趣味の)模倣」や、小谷野敦の「西洋コンプレックス」と一蹴する意見も見られるが、このエキゾチックな衒学趣味の幻惑が本書の大きな魅力でもあり、いまだ愛読者は絶えず、『虚無への供物』、『匣の中の失楽』その他多くの追随作品、オマージュ作品を生み出している。造語や、捏造、欧米語の発音表記(ルビうちで多用されている)の間違いや、展開上の矛盾、探偵法水の言動の不可解さなども指摘されているが、江戸川乱歩は、「この一作によって世界の探偵小説を打ち切ろうとしたのではないかと思われるほどの凄愴なる気魄がこもっている」と評した。作者の小栗虫太郎は本書を、本など何もない貧乏長屋住まいのときに書き、自らあのときは悪魔が憑いていたと語っている。
長編なので、段落で区切りました。
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